概要
統計データは21世紀の石油である。これは世界の共通認識といってもよい。ところがその認識が日本にはあまりにも乏しい。
筆者の目では今の日本を見ると数字を全く重視されていないことがわかる。
データを見極め、正しい数字を読み解ければ、現在の立ち位置を見誤ることはないし、未来もかなり正確に予測できる。消費増税から安全保障まで日本の正しい未来を知りたければ、まずは正しい数字を論拠にすることである。
財政再建はすでに達成
2017年度末のバランスシートを見てみよう。国の資産合計額は672兆円7419億円。
一方負債はどうか。合計額は1221兆6234億円。
単純に負債から資産を差し引けば548兆円8815億円になる。
500兆円規模の借金があると心配する人もいる。だが国はちゃんと稼いでいることを忘れてはならない。
政府には民間にはない機能がある。一つは徴税権である。日本の税収は景気によって波はあるが、大雑把に言えば毎年50兆円程度ある。この資産価値が将来的に高くなることを見越せば、割り引いて考えても20倍くらいにはなる。
もう一つ、日本銀行の存在を忘れてはならない。
日銀には日銀のバランスシートがある。日銀の主な資産は約400兆円の国債である。一方、主な負債は約100兆円の日銀券と約300兆円の日銀当座預金だ。統合政府として見れば、資産の国債は政府の負債であるから相殺できる。差し引きゼロ。
これはまやかしなのだ。日銀券と日銀当座預金を合わせたことをマネタリーベースという。
マネタリーベースは原則的に無償還、無利子であるから実質的な債務からは除外できる。つまり、400兆円は借金としてカウントしなくてもよい数字だ。ということは政府の500兆円規模の借金から400兆円が差し引かれるだから、国の負債は実際には100兆円規模となる。
さらにいえば官僚の天下り先となっている特殊法人にも資産はたっぷりあり、筆者の計算では総額600兆円ほどにもなる。これらを見れば日本の財政再建はすでに達成されている。
八ッ場ダム中止
2009年に民主党がマニフェストで中止を表明した八ッ場ダム建設事業。数字で判断すれば、ありえない愚行である。
八ッ場ダム建設では4600億円の総事業費のうち、すでに3400億円が費やされている。この時点で工事を中止すれば、3400億円はサンクコストとなる。
サンクコストとは、投下した資本のうち、事業の撤退や縮小を行っても回収できない費用のことをいう。
残りの1200億円を投下して工事を完了すれば、6000億円の便益が得られる。中止か継続かは迷う余地すらない。
大阪万博
これまでの万博誘致コストは、国、大阪府・市、民間団体と合わせても30億円程度であった。対して開催された場合の経済効果は2兆円といわれており、全く効率的な先行投資だった。
金融政策と雇用政策
筆者の推計では失業率を1%下げることができれば、自殺者を3000人程度減らすことができる。
アメリカなどでは金融政策は雇用政策であると認識されている。中央銀行は雇用に責任をもつことは、常識中の常識である。金融政策が自殺の多寡に大きく関係するのは少しも不思議なことではなく、合理的に説明ができるのだ。
一方で日本の経済学者には、金融政策と雇用の関係を数量的に理解している人は少ないように思われる。これは、海外と比較して数字や統計の基礎訓練ができていないからだろう。
新卒者の就職率
新卒者は限界的な雇用なので、政策による雇用創出の巧拙の影響をもろに出る。
大学卒者の卒業年の就職率について、民主党時代の2011年91%だったが安倍政権の2018年98%である。雇用の既得権のない若者に、将来の安心をいかに与えることができるかは、政治にとっても重要なことである。これは大学関係者なら誰でも知っていることだ。
引用元 『この数字がわかるだけで日本の未来が読める』 高橋洋一