本書は、2030年の未来を考えるための補助輪として、SDGsとさまざまな統計情報、さらにそれらを俯瞰するための地政学的なフレームをセットにして、読者に提供することが目標である。
2030年の世界に影響を与えることになるであろう、5つの破壊的テクノロジー分野の動向を考えた。
・A Iなど機械学習関連技術領域
先端テクノロジー開発のための指標に共通して見られるのは、多くのA Iに関連した技術である。
・5G
5Gの現行のスマートフォンの通信規格4Gに代わる国際的な方針である。
・自動運転
自律走行は、人間の介在しない自動車や移動機械の操作、いわゆる自動運転のことである。
1つの量子にさまざまな状態が重なり合う量子現象。それを量子ビットとして用いることで、計算する課題によっては従来のノイマン型コンピュータを上回る計算力を発揮するといわれているのが、量子コンピュータである。
5 in 5での活用事例として、暗号化アンカーと呼ばれるマイクロチップと組み合わせた商品管理が挙げられている。商品に暗号化アンカーを組み込み、その出自をブロックチェーンの高度なセキュリティのもとで管理することで、生産現場から消費者の手元に届く過程での偽装を防ぎ、本物であることを保証するという技術である。
2050年までの間に、画期的なイノベーションと、それに伴う社会変革が期待されるテクノロジーを食料、健康、資源、都市、労働の5つのテーマに集約して解説する。
・食料
IoTデバイスやA Iによる予測と最適化とを連携しながら、食品のサプライチェーンにおける生産量や流通量を厳密にコントロールすることで、廃棄率の減少と安全性の向上を図る戦略は今後のテック面での有力分野である。
・健康
導入され始めているのはロボット手術である。
3次元画像を見ながらロボットアームで手術を行いますが、すでに12種類の手術で保険が適用されるようになっている。
・資源
再生可能エネルギーで、世界的に実用化が進んでいるのが太陽光発電と風力発電である。
・都市
2020年代中盤までに住宅のスマートグリッド化が完了し、電力消費の最適化も進むと予測されている。自動運転やパーソナルビークルをはじめとする多様なモビリティの導入によって、鉄道・バス・タクシーは数ある移動手段のひとつでしかなくなる。
・労働
2030年頃には弁護士、裁判官、税理士といった、法律に基づいた判断が求められる職業の現場にA Iが導入される。
人口の変化
人口の変化に基づいた予測を考えていく。
現時点で世界最大となる約14億円の人口を誇る中国ですが、その数は今後10年以内ピークを迎えると予測されている。
2030年代以降、中国に代わり世界一になるといわれているのがインドである。
GDPの変化
GDPにどのような変化をもたらすのでしょうか。
インドは2030年、GDPで世界3位になると予測されている。
2050年、中国・アメリカ・インドの三強は飛び抜けた超大国として君臨していく。
2020年代のデジタル社会を支配するイデオロギーを、4つの類型に分けて解説する。
なお、ここでいうデジタル・イデオロギーとは地政学的な差異から生まれる、デジタルへの向き合い方の違いのことを意味する。
・アメリカン・デジタル
インターネット発祥の地であるアメリカを中心に発展したイデオロギーである。
人の自由な可能性を探求するためにコンピュータを使うという考え方が見てとれる。
・チャイニーズ・デジタル
国家の力を後ろ盾にした資金の循環は製造業の躍進を支え、ハードウェアの技術力では世界トップに立つ分野も出てくる。ソフトウェアの分野においても、A Iを駆使したイノベーションを次々と生み出し、アメリカに迫る勢いとなっている。
・ヨーロビアン・デジタル
ヨーロッパの伝統と文化を背景にしたブランド力によるエンパワーメントである。スペック上には表れない価値を創造し、顧客との間に強力なエンゲージメントを生み出す。
・サードウェーブ・デジタル
貧困国の市場に適合するよう開発された、先進国では今まで見過ごされてきた価値を再定義した製品による新種のイノベーションである。
その典型例がインドのタタ・モーターズが開発した自動車「ナノ」である。この自動車の価格は11万ルピー、日本円にして約22万円である。先進国ではこれほど低価格な自動車の市場は存在しない。
先進国の格差拡大
グローバルに見ると経済成長と格差の解消はすでにかなり両立している。エコノミストのブランコ・ミラノヴィッチ氏が発表した統計データ「象の曲線」を見ると、この20〜30年で、中国やインドなどを中心としたグローバルな中間層では経済発展が一気に進み、個人の所得が増加していることがわかる。
所得上昇から取り残されているのは、サハラ以南のアフリカを中心とするグローバルな最貧困層と、先進国の中間層である。
90年代前半までは、一部の先進国の経済成長によって、世界全体のGDPが増加していた。ピーク時はG7が世界全体のGDPの7割近くを占めていた。
それが、90年代半ば頃からG7の占める割合は低下していき、直近では4割から5割程度に過ぎない。代わりに、中国やインドをはじめとした新興国が急激に伸びている。
中抜きされる層
モノ作りの世界でも、競争力の高い企業が多国籍化すると、製造工程は新興国の安い労働力に任せて、研究開発やデザインなどを先進国の高スキルを持つ人材が担うようになる。すると、先進国で製造工程を担っていた中間層の人材は仕事にあぶれるわけである。
企業が多国籍化したときに、先進国の中間層は最も代えがきくので中抜きされてしまう。上と下が残って真ん中が消える。これが、先進国の中間層が没落した大きな要因である。
食糧問題
食糧に関しても、今後大きく人口が伸びていくのはアフリカくらいで、中国も早晩ピークアウトする、インドもどこかで止まる。出生率は下がっている。地球全体でも2100年頃には人口はほぼ横ばいになる。
その時人口を支えられるエネルギーと食料の問題さえ片付いてしまえば、サスティナビリティの問題は、ある意味ではクリアできてしまう。
出生率低下
国の社会保障制度が充実して、個人でも資産形成ができるようになってくると、子供がいなくても老後への不安がなくなる。成熟社会で子供を持つことは、もはや投資ではなくて消費、ある種の贅沢になってしまう。
結果的に、親が高収入でないと子育てができない社会になってしまい、出生率も低下する。これは、現状ではあらゆる国に見られる普遍的な法則である。
未来の可能性がない
1998年に貧困についての研究でノーベル賞を受賞した経済学者、アマルティア・センは、潜在性・アプローチを提唱した。これは貧困を潜在性、つまり、個人が秘める可能性の多寡で測定しようという試みである。
このアプローチにおいて貧困とは、単に金銭を多く持たないことではない。未来に開かれた可能性を持たないことが、ここで定義する「貧困」となる。
資源の呪い
リビア、アルジェリア、アンゴラなど、アフリカには巨大な油田を擁する産油田がいくつもある。第二次大戦後、アフリカの各地で大規模な油田の開発が進められたが、そこで得られた資源が国全体を富ませることはなかった。
ひとつは天然資源の豊かさそれ自体にあるといえる。豊富な資源を持つ国の為政者は、国内インフラの開発努力や教育の拡充などをせずとも莫大な富を得られる。国内産業が未発達のままだと、市場が空洞化して富の再配分が行われないため、貧富の差は拡大する。
アフリカを長年にわたって苦しめてきたこの現象を、経済学者たちは資源の呪いと呼んでいる。
近代化な制度が定着しにくい
アフリカの困難、先進国でいうところの近代化を経由せずに現代に至ったことである。
国民国家や民主主義といった概念を導入しても、国民の教育から行う必要があったため運用が定着するまで時間がかかり機能しなかった。
携帯電話
2000年代以降に進んだ情報革命によって、アフリカの状況は大きく変わった。きっかけは携帯電話である。2003年には10%未満だった携帯電話の普及率は、2009年に50%、2014年には80%を超えるまでに高まっている。
独創的なイノベーション
先進国では生まれない独創的なイノベーションがある。
その例は、ケニアで普及している電子マネーMペサである。ケニアの全世帯の65%以上で利用され、1日の取引額は1億6200万ドルにもなるサービスである。
アフリカでは身近に銀行がなく口座の保有率も低いため、金融システムを通さずに遠隔地に送金するサービスのニーズがある。
ある程度の収入がないと健康的で文化的な人間らしい生活を維持することは難しい。
こうした先進国の内側にある貧困を相対的貧困と呼ぶ。その定義は、全世帯の所得の中央値の半分以下とされている。日本の場合、所得の中央値は244万円なので、その半分の年収122万円以下が相対的貧困となる。厚生労働省の調査によると、日本人の約6人に1人が貧困層に該当する計算になる。
ギグ・エコノミー
ギグ・エコノミー、インターネットを通じた単発や短期の仕事による貧困である。
ランサーズといった一部の業務もこれに該当する。
これらのプラットフォームでは、数百数千という数の労働者がデータベースに登録され、大規模かつ効率的に依頼主との業務のマッチングが行われる。
ギグ・エコノミーは誰でも簡単にできる安価で保障のないフリーランス業である。
大学進学率
大学進学率は家庭の年収と強い相関関係がある。年収400万円以下の家庭は31.4%前後であるのに対し、1000万円以上の家庭では62.4%と約2倍もの差がある。
高学歴の親の子供ほど高学歴になりやすい社会では、階層の固定化が進みやすいと考えられる。
農作物や畜産物などを生産する際には、実は多くの水が使われる。その不可視の水資源のことをバーチャルウォーターと呼ばれる。
海外から大量に農作物や畜産物を輸入している日本には、それを通じて大量のバーチャルウォーターが流入している。
限界費用ゼロ社会
限界費用とは、生産量を最小の1単位だけ増加させたときの総費用の増加分である。例えばパン工場でパンを1つ追加生産すると、その分の小麦粉代がかかる。これが限界費用である。工場の建設費やパンのレシピの開発費といった初期費用は含まず、追加で生産したときに発生する費用のみを指します。
デジタルの世界ではデータを無限にコピーできるため、コンテンツを追加生産するための限界費用はほぼゼロになる。
そういった限界費用がゼロに近づいた社会においては、所有の概念が希薄化するとリフキンは提唱する。
所有に代わって社会を駆動する原理となるのが共有である。
ドイツは原発をやめると宣言した後、約17%(2011年)から約13%(2016年)に割合こそは減っているのだが、そもそも日本でのエネルギー利用に占める原発の割合は約1%である。つまり、ドイツは実質的には日本よりも依存度が高い。
ドイツの隣には、ヨーロッパのエネルギー本国であるフランスがある。フランスは約75%の電力供給を原子力でまかなっている。ヨーロッパ大陸は全て同じ送電配線の電力系統でつながっているので、ドイツで電気が足りない際はフランスから安い原子力を調達できる。
新しいルール
ヨーロッパはその長い歴史の中で、現代社会を基礎付ける概念を数多く生み出してきた。民主主義、基本的人権、抵抗権、社会契約。こういった今の社会を成立させる根本的な考え方それ自体を輸出することで、西欧は19世紀以降の世界の覇権を確立した。
そして21世紀、ヨーロッパが再びその方法論を応用することで存在感を増している。例えば、責任投資原則、パリ協定、SDGs、さらにはE U内外の個人情報の流通を規制するE U一般データ保護規則。世界の経済はヨーロッパの定めた新しいルールの上で動き始めたといえる。